Artist Talk

2025年3月23日「PRISM2025」で開催されたアーティストトークの内容を掲載します。

1. 抽象との出会い、そして転機

皆さん、こんにちは。児玉明美です。今日は私の作品についてお話させていただきます。

私は、美術館にもほとんど行ったことがない、ごく普通の会社員でした。30歳で会社を辞め、独学でデザインの仕事を始めたことがきっかけで、絵に興味を持ち始めました。

しかし、絵を描くことは私にとって非常にハードルが高く、「絵は特別な才能を持つ人だけができるもの」と思い込んでいました。

そんな私が、出産を機に「一度きりの人生、やったことのないことに挑戦してみよう」と考えるようになり、思い切って武蔵野美術大学の通信課程に入学しました。

大学に入学して初めて抽象画に出会い、その自由な表現に衝撃を受けました。それまで、私にとって絵とは対象物を正確に描くものだと思っていたからです。

素晴らしい恩師との出会いも、私の人生を大きく変えました。恩師の先生に「抽象は自由だ!やってみてダメなことなんて一つもない」と言われ、固定概念が崩れ去ったのです。

2. 作品の素材について

抽象画の自由な世界を知ることで、私は日常の中にこそ美しいものが潜んでいることに気づきました。

古いものに刻み込まれた時間の痕跡、自然造形のリズム、日常感じる小さな感動。

それらはすべて、私を刺激し、創作意欲を掻き立てる源泉となりました。

そして、これらの感動や刺激は、私の作品の素材、つまり日々の生活の中で出会う「日常のかけら」へと繋がっています。

例えば、古い物や制作途中の作品、街で手にしたチラシ、新聞記事、大好きな映画や音楽で感動したこと、心に響いた言葉…。

これら全てが、私の作品を構成する大切な要素となっているのです。

3. 制作プロセス

私の制作プロセスは、事前に完成図を決めずに、その時々の感情やインスピレーションに従って手を動かしていきます。

まるで、自分の中にある感情や記憶の断片と対話するように、キャンバスと向き合っています。どんな表現が生まれるか、毎回予測不可能で、その偶然性を楽しんでいます。

4. 作品を通じて表現したいこと

私が作品を通して表現したいのは、「日常のかけら」である記憶の断片を繋ぎ合わせ、自身の感情と混ざり合いながらも、偶然や新しいものが生まれる瞬間の美しさです。

そして、常に変化していく「今の自分」を改めて認識する、その内省のプロセスでもあります。

現代は、情報が洪水のように押し寄せる時代です。意識しなければ、大切な『日常のかけら』や記憶の断片は、あっという間に流れ去ってしまいます。

例えば、本や映画で心に響いた言葉、日々の暮らしでふと感じた美しい瞬間も、時間の波にのまれ、薄れていってしまうのです。

だからこそ、私は小さなことでも、心に留まったかけらを大切に記憶し、作品を通して『今』を実感しながら表現したいと思っています。

それは、情報過多な現代において、流されず、自分自身を見失わないための、私なりの、意思表示なのかもしれません。

抽象画に出会えたことで、こうして皆さまの前でお話できることが信じられません。

今回、作品を選んでいただき、本当に感謝しています。ありがとうございました。

児玉明美プロフィールのご紹介

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2025年3月28日

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