人物や風景のように明確なモチーフがない抽象画を前にすると、どこに注目して鑑賞すればいいのか戸惑うこともありますよね。
けれど、抽象画を楽しむために特別な知識が必要なわけではありません。むしろ抽象画には、「これが正解」という具体的な答えはないのだと思います。
私自身、大学で抽象表現を学んでいた頃、恩師からこんな言葉を聞きました。
表現は自由。何をやってもいい。
この言葉は、作品をつくるときだけでなく、鑑賞するときにも通じるものがあると感じています。
- 抽象画の「正しい見方」がわからず戸惑っている方
- 美術館やギャラリーでもっと気軽にアートを楽しみたい方
- アートを通して自分の感覚や心境と向き合ってみたい方
この記事では、抽象表現を制作する作家の視点から、正解を探さずに自分の感覚で楽しむための「抽象画の見方や楽しみ方」についてお話しします。
抽象画の見方に「正解」はある?
抽象画を前にしたとき、「この作品は何を表現しているのだろう」「作者は何を伝えたいのだろう」と考えることがあるかもしれません。
もちろん、作品の背景や作者の意図を知ることも、鑑賞の楽しみのひとつです。
ただ、それだけが抽象画の見方ではありません。
色や形、線の動き、素材の質感など、作品を見て自分が何を感じるのかに目を向けてみる。そこから鑑賞を始めることもできます。
たとえば、
- この色を見ていたら、落ち着く気がする
- この形、どこかソワソワするな
- この線の動きが、なぜか気になる
- 昔の懐かしい景色を思い出した
こうした反応に、正しい・間違っているという基準はありません。
同じ作品を見ても、人によって感じ方は違います。また、同じ人でも、その日の気分や経験によって、作品の見え方が変わることがあります。
抽象画の見方に迷ったら、まずは作品を前にして、自分の目に何が映り、どんなことが心に浮かぶのかを観察してみてください。
抽象画の楽しみ方|注目したい4つのポイント
抽象画をどう楽しめばいいのかわからないときは、作品のどこかひとつに注目してみるのがおすすめです。
① 色に注目してみる
まずは、作品に使われている色を見てみましょう。
明るい色が目に飛び込んでくることもあれば、落ち着いた色合いに惹かれることもあるでしょう。複数の色が重なり合う様子や、色と色の組み合わせが気になるかもしれません。
「この色が好き」「この組み合わせは不思議だな」と感じるだけでも、鑑賞は始まっています。
② 形や線の動きを見てみる
次に、作品の中にある形や線に目を向けてみます。
丸や四角のような形、曲線や直線、繰り返される模様。整然と並んでいるものもあれば、自由に動いているように見えるものもあります。
形や線を追っているうちに、何かが動いているように感じたり、リズムを感じたりすることもあるかもしれません。
③ 素材や質感を感じてみる
抽象画は、色や形だけでなく、素材によっても印象が変わります。
絵の具の厚み、紙の凹凸、かすれた跡、何かを重ねたような表面。作品に近づいて見ると、離れて見たときには気づかなかった表情が見えてくることがあります。
どんな素材が使われているのか、どのように手を加えたのか。作品に残された跡をたどることも、抽象画の楽しみ方のひとつです。
④ 自分の中に浮かぶものを探してみる(自分の感覚を知る)
作品を見ていると、特定の風景や記憶、言葉などが浮かんでくることがあります。
それは、実際に描かれているものとは違うかもしれません。けれど、作品をきっかけに自分の中から何かが出てきたのなら、それも鑑賞のひとつの形です。
何かを思い出したり、理由はわからないけれど気になったり。抽象画に向き合う時間は、実は「自分がいま何を感じているか」という自分自身の感覚を知る時間でもあります。
そんな小さな反応を無理に説明しようとせず、そのまま味わってみてください。
抽象画を見ても「何も感じない・わからない」ときは?
抽象画を見ても、特に何も感じなかったり、面白さがわからなかったりすることもあると思います。
抽象表現にはさまざまなものがあります。色や形の組み合わせ、素材、制作方法によって、作品の印象も大きく変わります。
すべての抽象画が、自分にとって魅力的に感じられるとは限りません。
無理に理解しようとしたり、何かを感じ取ろうと頑張ったりする必要はないと思います。
「今回はあまり惹かれなかった」と感じることも、自分の好みや関心を知るきっかけになります。
いろいろな作品を見ていくうちに、思いがけず心に残る作品に出会うこともあるでしょう。
まずは気負わず、目の前の作品を見てみる。そこから始めてみてはいかがでしょうか。
作家の私が抽象表現を通して考えていること
私自身も、抽象表現を通して、日常の中にある断片や記憶、ふと目に留まったものを作品に取り入れています。
色や形、文字、素材などを組み合わせながら制作していると、最初に考えていたこととは違う表情が生まれることがあります。
意図していたことだけではなく、偶然できた形や、思いがけない組み合わせから見えてくるものもあります。
そして、作品を見た人が、私自身は考えていなかったことを感じ取ってくれることもあります。
作品は、つくり手が完成させた時点ですべてが決まるのではなく、見る人との出会いによって、また違った意味を持つことがあるのではないでしょうか。
だからこそ、鑑賞する人が自分なりの見方で作品と向き合うことを大切にしたいと思っています。
抽象画をもっと知りたい方へ|おすすめの本
抽象画についてもう少し知りたい方には、金子 善明氏の『抽象画入門』もおすすめです。
この本の中でも、「日常の風景の中に抽象的な美しさはいくらでも潜んでいて、大切なのはそれに気付くかどうか」ということが語られています。
特別な知識を持って難しく考えるのではなく、街の風景や日常のふとした瞬間に目を向けてみること。それこそが抽象画を楽しむ素敵な第一歩なのだと改めて感じさせてくれる一冊です。
知識を得てから作品を見ることも、先入観を持たずに自分の感覚で作品と向き合うことも、どちらもアート鑑賞の楽しみ方です。
まとめ|自分なりの抽象画の見方を見つけてみよう
抽象画の見方や楽しみ方に、ひとつの決まった方法や具体的な答えがあるわけではありません。
色や形に注目してもいい。素材や制作の背景を知ってもいい。何も考えず、ただ眺めていてもいい。
作品を見て何かを感じることもあれば、何も感じないこともあります。そのときの自分にとって、どんなふうに見えるのか。それを確かめてみることも、抽象画を鑑賞する面白さではないでしょうか。
次に抽象画を見る機会があったら、少しだけ立ち止まって作品を眺めてみてください。
あなたには、今日の抽象画がどのように見えますか?
